歯周病が全身に及ぼす悪影響とは?
歯周病は皆さんもご存知の通り、口の中の炎症性疾患です。
しかし、近年、歯周病は血液を通して全身の健康に悪影響を与えていることが判明しました。
歯周病にかかると、全身にどのような影響があるのか、関連する病気にはどんなものがあるのか詳しくご紹介していきます。
そもそも、歯周病とはどんな病気?
歯周病は進行すると、歯槽膿漏とも呼ばれます。
歯周病のない人の歯茎は綺麗なピンク色をしていて引き締まっていますが、歯周病にかかると赤く腫れ、炎症がみられるようになります。
また、進行とともに歯と歯茎の隙間にある歯周ポケットと呼ばれる溝が深くなり、その中に汚れが溜まり、強固に固まります。
この汚れが歯周病の直接的な原因といわれる「歯垢」(プラーク)や「歯石」です。
歯垢、歯石は細菌にとってとても良い環境で、ここを住処として増殖していきます。
歯垢は「垢」とあるように、歯磨きでも除去できるほどの汚れですが、歯石は「石」のように強固に歯にこびりつくため、歯科衛生士さんによるスケーリングなしには除去できなくなります。
つまり、歯石になる前に歯から洗い流すことが重要なのです。
また、歯周病菌は「嫌気性菌」といって酸素に触れると生育が阻害されます。
そのため、酸素のないところ、歯周ポケットの奥に潜み、空気に触れることを避けるように生息します。
歯周ポケットに入り込んだ歯周病菌は、毒素を排出します。
これが、歯茎や歯を支える歯槽骨を少しずつ溶かし、最終的には歯に動揺がみられるようになります。
歯周病は虫歯と同じく、歯を失うリスクの高い怖い病気としてしられていますが、実は自覚症状がないままに進行していくため、気づいた時には既に重症化している症例も珍しくありません。
当然、1度溶かされてしまった骨を自然に再生するのは困難ですので、治療は可能ですが、「元通り」になることは叶いません。
また、歯周病は心血管疾患や糖尿病の発症リスクも高めることが分かっています。
歯周病と糖尿病の関連性
歯周病と糖尿病、全く別の病気を思っている方も多いと思いますが、近年、この2つに相互関係があることが判明しました。
歯周病に罹患し、歯茎に炎症が生じると、血糖値が高くなることが1番の理由です。
また、糖尿病に罹患すると、2倍以上歯周病の罹患リスクが高まること、糖尿病患者が歯周病に罹患すると糖尿病の重症化リスクが高まることも判明しています。
糖尿病に罹患すると歯周病が悪化する
糖尿病に罹患すると、血糖値が上がります。
高血糖値が続くと、血管が脆くなり、腎不全、網膜障害、神経障害といった合併症を引き起こしてしまいます。
この血管の障害は、口腔内の毛細血管にも生じます。
歯茎の血管が脆くなれば、身体の他の部位と同じように、炎症を悪化させることに繋がります。
また同時に免疫力が低下するため、歯周病菌の繁殖を抑えることができません。
唾液の分泌量が減ることで細菌が長く留まり、増殖することから、虫歯・歯周病がどんどん進行してしまいます。
糖尿病に罹患すると歯周病が悪化する悪循環が生まれるのには、このような理由があるのです。
その他の全身疾患と歯周病の関連性
歯周病は、全身疾患とも関連する病気です。
心疾患、脳卒中のリスクがある
歯肉が細菌に冒されると、血管から歯周病菌が運ばれ、心臓にまで届いてしまう可能性があります。
例えば、感染性心内膜炎の原因も、口腔内の細菌が原因であることが多いといわれています。
次に注意したいのが、動脈硬化です。
動脈硬化は、血管が厚みを増して硬くなり、本来の太さを保てなくなる病気です。
実は、動脈硬化の病巣から5種類もの歯周病菌が見つかっていることが近年の研究から判明しています。
歯周病菌が産生する毒素や感染源で産生された炎症性物質のサイトカインが血管そのものに炎症を拡大させ、血管を硬くしたり、血栓ができるようになることが理由です。
妊娠中の女性が注意したい歯周病
細菌の中には、子宮筋を収縮させたり、赤ちゃんの発育に悪影響を及ぼす物質が含まれているため、妊娠中の女性は歯周病に十分注意してください。
また、妊娠中の女性が歯周病に罹患すると、早産、低体重児出産のリスクが高まることも分かっています。
喫煙習慣や飲酒習慣よりもリスクが高いといわれていますので、妊娠中であれ、治療は進めていきたいところです。
妊娠した女性はホルモンバランスの影響の他、悪阻による影響から口腔内の清掃が行き届かなくなることが多くなるため、歯周病そのもののリスクも高い状態です。
妊娠中はより一層丁寧に口腔ケアをすることをおすすめします。
誤嚥性肺炎の原因となる
誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)も、歯周病によって引き起こされることがあります。
誤嚥性肺炎というと、食べ物が誤って気管に入ってしまうことを指すことが多いですが、細菌が気管に入って肺に送られることでも起こります。
口の中の細菌が多ければ多いほど肺炎のリスクは高まり、時には命に関わることもありますので、高齢者の口腔ケアも欠かせません。
高齢者の方は歯の残存本数が少ないことが多いため、歯周病の罹患リスクは低くなりますが、歯周病菌が口内に存在しているかはまた別の問題です。
入れ歯を使用している方は、入れ歯の清掃も予防の1つとなります。
日々のお手入れももちろんですが、定期検診をしっかり受けることも重要です。